テスラ Model Sに試乗させて頂きました

7月17日(日)にshaoさんのテスラ Model Sに試乗させて頂きましたのでレポートします。オーナーのshaoさん、リフトの手配をしてくださった水野さん、みなさん、どうもありがとうございました。

ライバルが主にドイツ車になるせいか、南欧っぽいエクステリアデザインに振っているようですね。
私の興味は自動運転よりもパワーエレクトロニクスとメカニズムの側。そこで無茶なことに「床下を見たい」というリクエストをしてしまったのですが、リーフのオーナーである水野さんが日産のお店と調整してくださり、リフトアップして頂くことができました。

リフトしてもらって最初に気になったのが、床下にボルテックスジェネレータがないこと。一世を風靡した500系新幹線の翼型パンタグラフ(語義から言えば「パンタグラフ」ではなく、8両編成化された現在では撤去済)には、風切音抑制のためにフクロウの羽を模した凹凸が付いていましたね。最近の自動車は空力特性向上のために床下機器を覆うパネルを貼るだけでなく、ボルテックスジェネレータを設けている車種があります。しかしテスラ Model Sは、床下に敷き詰めたリチウムイオン電池(汎用規格の18650を大量使用しているのだとか)を保護する真っ平らな金属板だけです。燃費の概念がガソリン車と違うのでわざわざボルテックスジェネレータを付けていないのか、ボディの設計がグローバルな大メーカほど詰められていないのか、ちょっと気になりました。
おそらくボルトナットはインチサイズでしょうね。アメリカ車の地味に面倒なところです。

駆動輪は後輪ですから、前輪は操舵と懸架のみとシンプルです。1000万円という価格帯とライバル車を考えるとFFにすることは考えられませんし、4駆にする必然性も低そうですが(2015年春に4駆モデルを追加)、やはりトランクのスペースは犠牲になっています。エンジンのないボンネットも荷物スペースですが、その中にはあまりものを入れないですからね。
少し見にくいですがブレーキキャリパーへの油圧配管も見えます。もちろん減速時はできるだけ電気ブレーキを使ってエネルギーを回収していので、エンジン車より使用割合はずっと低いでしょう。

ラックアンドピニオンを蛇腹のブーツで保護しています。当然パワーステアリングは電動ですが、既存車のパーツを使っているのでしょうか。テスラの電装品はボッシュを多く採用している可能性があるそうですけど、電気自動車固有のものを除いて、既存のガソリン車のパーツを使っているような気がします。
サスペンションも既存のものを使っている感じがしますが、セッティングを車内のタッチパネルから自由に変えられるオプションにもできるそうです。でも、せっかくなら1950年代にシトロエンが出したハイドロニューマティックくらい革新的なメカニズムがほしいところです。ただ、これは先進的な機構と「魔法の絨毯」と呼ばれる乗り心地に比して故障が多く、「ハイドロ沼」なんて言い方もありました。フランス車・イタリア車の専門店でハイドロスフィアの文字通り山を見たときは、これは大変だなぁと思ったものです。

車両中央部の床下から後方を撮影しました。パワートレインへの吸気口と思われる穴が小さいですが2つ見えます。冷却の点で電気自動車はエンジン車より有利ですが、日産リーフはパワートレインを水冷しているとのことなので、テスラの冷却系がどうなっているかは気になりますね。

ちょっと見づらいですが後輪側を下から撮影したものです。ドライブシャフトのブーツが見えます。やはりパワートレインがコンパクトなようですね。ただ、鉄道車両で言う主変換装置をどのように配置しているのかはわかりませんでした。もっとも、そんなのを見せる必要はないですし故障したらユニットごと交換でしょうけれども。

試乗は高速道路のパーキングエリアから金沢駅まででした。「自動運転」については他の方がたくさん言及していますので、私があまり多く書く必要はないでしょう。
テスラは予想以上に「普通の車」の感覚で運転できるので、自動運転そのものも運転支援技術の延長線上でしっくりきます。むしろ、ウィンカーが左手操作になる方が最初慣れないくらいです(左ハンドルの外車基準でよいわけですけど)。やはり電気自動車だけあって細かく制御されています。内燃機関や油圧がアクチュエータだとこうはならないでしょう。
実際に自動運転にしていて気になったのは、車側の挙動がステアリングにせよ加速・制動にせよワンテンポ遅くて心配になってしまうことでした。つまり、車が次に何をしようとしているかがわからないので、慣れるまでは落ち着かなさそうです。例えば車線変更はウィンカーレバーの操作により車に人間の「意思」を伝えますが、実際に車線変更されるのはミリ波レーダなどセンサ系により安全な距離と検出されてからになります。それまで「自分の意思は車に伝わったかな?」となるわけです。
それでも、少なくとも高速道路上ならばテスラの自動運転は十分に実用的です。スロットル操作とハンドル操作のアシストは疲労低減にかなり役立ちます(ただ、ブレーキペダルの上に足を止めておくのは若干疲れます)。
むしろ、実用度を下げているのは速度が一定しない「手動運転」車です。高速道路では大和トンネルなどサグ(下り坂の後の上り坂)で速度が低下することによる渋滞名所が数多くあります。道路条件がよい高速道路では、自動運転で定速制御することにより輸送効率はかなり上がると思われます。トラックが隊列を組んで走れば空気抵抗の点でも有利でしょうしね。
ロボット研究などの世界では環境側に手を加えるべきかどうかが問題となりますが、自動運転に関してはビーコンなどを道路に設置したり車側のセンサに特定の情報を与えることができる反射材を使うなどして、安全な自動運転を補助する方向に持っていくのがよさそうです。今後、道路規格や車両間の通信規格などを詰めていくことになるのだと思います。

一般道路ではエンジン車と比べての違和感が本当になく運転できます。実はロードノイズが結構あって(これは遮音性に課題があるということかもしれません)、「無音」という印象にはなりません。タイヤはブリヂストンのREGNOを履いていたので静音に振っているはずなのですが…
運転のフィーリングは、車の個性の範囲内という印象です。ステアリングは回し始める時に若干抵抗を感じますが、意図したとおりに操舵できます。ブレーキは電気ブレーキと油圧ブレーキの併用になるわけですが、電気ブレーキのフィーリングは車内のタッチパネルでエンジン車の感覚に合わせることができるので違和感がありません。アクセルペダルから足を離すと車側としては電気ブレーキになるとのことですが、このフィーリングはエンジン車でアクセルを抜いたときのエンジンブレーキと同様になるわけです。
実はこの辺り非常に面白いところで、テスラは電気自動車である分、フィーリングをより細かく運転者好みにすることができます。生体認証でもして個人別のセッティングを出してくれるとよいように思えました。電気自動車に最適なモードで運転する人、エンジン車と互換性のあるフィーリングにしたい人などいろいろですからね。やろうと思えばいくらでも細かいことができるというのが電気自動車の大きなメリットだと思います。

最後に、たぶん他の人が書かないけれども気になったことを書いておきます。スカートやハイヒールで乗る場合です。結論から言うと、通常のエンジン車とあまり変わりません。これは当然と言えば当然なのですが、電気自動車ならではの設計の自由度の高さをあまり活かしていない印象もあります。
当然このような車は(長身の)女性を乗せる場合が多くあるわけですが、ロングのドレス(またはタイトスカート)とハイヒールというシーンもありえます。でも、こういう時の車への乗り降りは、車高(座面)が低いと大変なんですね。まず、膝が開けません。片足を入れて腰掛けてからもう片足というわけにはいかないのです。乗るときはまずシートに腰を下ろしてから、両足をできるだけ一緒に回します。この時、高いピンヒールだと特にドアの下で引っかかります。この車に限らず、座面が高いけれどもピラーに持ち手があるSUVなどの方が乗降が楽だったりします。テスラ Model Sの場合、スポーツカーほどではないですが座面が低く、その割にドアの下がフロアから持ち上がっているので、ロングドレスやタイトスカートにハイヒールだと品よく身をこなすのがちょっと大変かもという印象でした。価格帯を考えれば、「乗る人を魅力的に見せる」という点からもう少し何とかなってほしいところですね。シトロエンのハイドロニューマティックはかなり自由に車高を上下させることができたので、そういう機構が付くといいのかもしれません。
乗り込んでしまえば足下はわりとすっきりしているので、運転そのものはロングスカートやタイトスカートでも問題ないです。

テスラ Model Sは先にも書いたとおり「普通の車」として乗ることができます。革新的な技術を前面に出すより、既存の車からの違和感を出さない味付けになっているのでしょう。しかし、その背後には膨大なポテンシャルがあります。それを感じることができた試乗でした。